借金をしても生活保護は受け続けられるのかについても解説
仕事ができない、年金が少ない、などの事情で「今の生活がままならなくなった」場合に受けることができる生活保護ですが、受給を検討している方の中には、これまでも生活に困っており「既に借金がある」という方も少なくないと思います。
そういった場合「借金があっても生活保護の受給申請は通るのか」と気になっている方もたくさんおられるのではないでしょうか。
また、既に生活保護を受けている方の中にも、生活が苦しいからお金を借りたいが「借金をしても生活保護は受け続けられるのか」と疑問を抱えている方もおられると思います。
今回の記事では、そんな疑問に対し「借金がある状態でも生活保護申請できるのか」や「新たな借金をするとどうなる」のかといった内容について解説をしていきます。
生活保護は借金がある場合でも申請できる
結論から言いますと、すでに借金がある状況だったとしても「生活保護の申請が認められるかどうかに影響しない」です。
その理由としては、生活保護を受ける要件は次の3つであり、借金の有無については要件に含まれていないからです。
- 生活保護の申請をすること
- 本人の資産だけでは最低限度の生活ができないこと
- 本人が利用できる資産や能力などを全て最低限度の生活維持のために活用すること
それでは、生活保護を受けるためには、他にどんな条件があるのか確認していきます。
生活保護を受給出来る条件
生活保護を受給出来る条件は、厚生労働省の定める「最低生活費」よりも収入が少ないことが条件です。
主な受給条件としては次の4つが挙げられます。
条件①最低限の生活費が不足している
厚生労働省の定める最低生活費とは「生活費と家賃の合計」のことで、住んでいる地域や家族構成によって金額は変わりますが、その最低生活費が「収入よりも下回っている」場合に受給対象となる可能性があります。
条件②貯金や土地などといった財産を持っていない
売却することで生活できるような「まとまった資産」を持っている場合、売却すれば生活できるため、そういった資産を持っていないことが条件になります。
また、貯金に関しては0円でないと受給対象外になると思ってしまいそうですが、「最低生活費」の半分以下であれば0円でなくても問題ありません。
条件③頼れる親族がいない、支援を受けられない
頼れる親族がおらず支援を受けられない状態であることが受給対象の条件となります。
生活保護の申請時には扶養義務者となる、父母や祖父母のほか、兄弟姉妹といった「一定範囲の親族」に対し支援の有無を確認する「扶養照会」という連絡をするケースがあります。
ただし、親族と疎遠になっている場合や、過去に虐待やDVなどで頼ることができないなどの事情がある場合は、申請時にあらかじめ相談するようにしましょう。
条件④働けず収入を得られない状況にある
病気やケガなどが理由で働けずに収入がない状態の人も、生活保護の対象になります。
また、働いていたとしても毎月の給与が最低生活費を下回っている場合は、受給対象となるケースがあります。
その場合は、不足している最低生活費を補う形で支給が行われます。
生活保護は、生活保護法1条で定められている「健康で文化的な最低限度の生活」を送る権利を国が保障しているため、最低限の生活ができない場合に受給することができる制度です。
注意が必要な点としては、最低限の生活をするための収入が不足している方に支給される制度なため、実は申告していない収入がある場合や、虚偽の報告をした場合には「生活保護が打ち切られる」こともあるため気を付けましょう。
生活保護を受給すると返済中の借金はどうなる?
それでは、生活保護を受ける前から借金があった場合、その借金の取り扱いについてどうなるのか解説します。
生活保護と借金に関する契約は「全くの別物」で、生活保護には借金に関する契約を無効にする効力はもっていません。
そのため、生活保護を申請し受給を開始したからといって、今までの借金が自動的に帳消しになったり、支払いが不要になるわけではありません。
返済中の借金の扱いについて以下の2つのポイントを挙げて解説します。
ポイント①借金の返済義務は残る
上記でも少し解説しましたが、生活保護と借金に関する契約は「全くの別物」なため、生活保護の受給を開始しても返済義務は残ります。
そのため、受給開始後も借金の催促や取り立てが止むことはありませんので、放置せず必要に応じて「自己破産」などの債務整理の手続きが必要になります。
ポイント②生活保護費を差し押さえられてしまう
借金を放置し滞納し続けてしまうと、債権者によって裁判所に申立てが行われ、差押えで債権額分の財産を回収されてしまう可能性があります。
そういったケースに陥った場合、預金口座に振り込まれた生活保護費が「滞納している借金分」として、差し押さえられてしまうことがあるため、注意が必要です。
本来、生活保護費は「差押禁止債権」に指定されているため、差し押さえの対象にならないです。
しかし、預貯金は差し押さえ対象なため、たとえ生活保護費であっても預金口座に振り込まれた時点で預貯金扱いになり、差し押さえられる可能性があるため注意が必要です。
借金返済・新たな借入れがばれると生活保護が打ち切りになる可能性がある
生活保護受給中についても、新たに借金することは可能ではあります。
しかし、新たに借金をすることで「さまざまなマイナス要素」が顕在化するため、不用意な行動は控えるべきです。
例えば、借金で借りたお金は「収入」として扱われてしまい、その分だけ生活保護費が減額されてしまいます。
また、借金をしたお金に対しては利息が発生し返済額は増加しているのに対し、生活保護費は減額されているため、以前よりも生活が苦しくなる可能性が大変高くなります。
それから、生活保護費は「生活をするための費用」になるため、借金返済のために使用することはできません。
以上のことから、生活保護を受給している時に新たな借金をすることについて「良いことは一つもない」ため、どうしてもお金がなく苦しい場合は訪問調査時にでもケースワーカーや福祉事務所に相談してみましょう。
生活保護費を使って借金返済すると不正受給に
生活保護費での借金返済は、不正受給に該当する可能性があります。
生活保護費は借金返済のために支給されているわけではなく、使用目的は以下の使用に限られるため、注意が必要です。
- 日常生活に必要な費用(食費・洋服代・水道光熱費など)
- マンション/アパートなどの家賃
- 義務教育を受けるために必要な学用品費
- 医療サービス、または介護サービスの費用
- 出産時の費用
- 就労に必要な技能の修得にかかる費用
- 葬祭時の費用
生活保護の申請と自己破産はどちらを先にすべき?
生活費の申請と自己破産の申請については、一般的には同時に申請するケースが多いですが、どちらを先に申請しても問題ありません。
ここでは、申請する順序によって発生する「メリットとデメリット」と、自己破産などの「債務整理の種類」について解説します。
申請順序①生活保護申請を先、自己破産申請が後のケース
メリット
先に生活保護費を受給できるため「自己破産」の手続き中の生活費を確保しやすいため、精神的な安定に繋がります。
デメリット
生活保護費の受給後、借金の引き落としなどで生活保護費から借金を返済されてしまうことによる「不正受給」に該当してしまう可能性があります。
申請順序②自己破産を先、生活保護申請が後のケース
メリット
差押えなどの可能性がないクリアな状態で生活保護の受給を開始でき、不正受給に該当するリスクが無くなります。
デメリット
税金を滞納している場合は、自治体に差押えなどの滞納処分を執行される可能性があります。
債務整理の種類
債務整理の種類には主に以下の3つになります。
債務整理の種類 | 裁判所の手続き | 整理内容 | 返済の有無 |
---|---|---|---|
自己破産 | 不要 | ほぼ全ての借金が返済免除になる | 原則なし |
個人再生 | 必要 | 申請することで法律の規定により借金を1/5程度に減額できる可能性がある | 原則3~5年で分割返済 |
任意整理 | 必要 | 将来利息などを減額できる可能性がある | 原則3~5年で返済 |
個人再生と任意整理に関しては「返済」することが前提の債務整理になるため、返済するための収入が必要になります。
しかし、生活保護受給対象者については収入が少なく返済できない可能性が高いため個人再生や任意整理を選択せずに「自己破産」するのが一般的になります。
自己破産することによるデメリット
以下の自己破産を申請することによって生じるデメリットについてまとめています。
一定以上の財産は回収されてしまう | 生活保護の受給は、基本的に財産を所有していないことが条件となるため、資産・財産については回収されてしまいます。 |
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事故情報(いわゆるブラックリスト)に登録される | 自己破産するとブラックリストにのるため、クレジットカードや家や車のローンの利用、契約が一定期間できなくなります。 |
賃貸契約時の審査に影響が出ることがある | 自己破産後に賃貸物件の契約をしたいと考えた場合、信用情報機関に加盟している家賃保証会社では審査が通らない可能性が高いです。自己破産していても利用しやすいのは公営住宅のため、不動産会社へ相談してみましょう。 |
借金の保証人、連帯保証人に影響がでてしまう | 保証人、連帯保証人を立ててお金を借り入れていた場合、自己破産後はあなたの借金を連帯保証人が背負うことになってしまいます。 |
官報に氏名や住所が掲載されてしまう | 「自己破産」を行うと、国の広報誌である「官報」に個人情報が掲載されます。 しかし、これは基本的に一般の人が見るものではないので、周囲に借金や「自己破産」の事実がバレることはほとんどないでしょう。 |
申請者の状況によって適した順序は異なるため、自己破産を依頼する弁護士や、自治体のケースワーカーに相談して決めるようにしましょう。
公的貸付制度の活用も検討しよう
ここまで生活保護受給中のあらたな借金については控えるように解説してきましたが、差し迫った事情により、借金せざるを得ないこともあると思います。
そんなときは「公的な貸付制度」の活用をおすすめします。
それでは、公的な貸付制度とはどんなものがあるのか具体的にみていきましょう。
生活保護受給者が活用できる公的貸付制度
厚生労働省では、次の公的貸付制度の活用が推奨されています。
制度①生活福祉資金貸付制度
生活福祉資金貸付制度とは、以下の対象者に対し経済的な支援と在宅福祉、および社会参加の促進を図ることを目的とした貸付制度です。
低所得世帯 | 必要な資金を他から借り受けることが困難な世帯で、貸付けにあわせて必要な支援を受けることによって「独立生活」ができると認められる世帯のこと |
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障害者世帯 | 身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者に属する世帯のこと。 (障害者総合支援法によるサービスを利用など、これと同程度と認められる者を含む) |
高齢者世帯 | 65歳以上の高齢者が属する世帯のこと。 |
制度②母子父子寡婦福祉資金貸付金制度
「母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」とは、20歳未満の児童を扶養している配偶者のない女子または男子、寡婦(かふ)等の生活を経済的に支えるための貸付金制度です。
この制度の貸付け資金の種類には「事業開始資金」「事業継続資金」「修学資金」「技能習得資金」「修業資金」「就職支度資金」「医療介護資金」「生活資金」「住宅資金」「転宅資金」「就学支度資金」「結婚資金」といった種類があり、それぞれに支援条件や貸付け限度額が存在します。
参考:母子父子寡婦福祉資金貸付金制度 | 内閣府男女共同参画局
制度③年金生活者支援給付金制度
年金生活者支援給付金は、公的年金等の収入金額やその他の所得が一定基準額以下の方に対し、生活の支援を図ることを目的として年金に上乗せして支給するものです。
厳密には本給付金は貸付金ではありませんが、生活保護費の受給を補うものとして「公的貸付と同じ働き」をすることから、ここで解説します。
対象としては「老齢基礎年金受給者」「障害基礎年金受給者」「遺族基礎年金受給者」で、いずれも日本年金機構への認定請求が必要になります。
記事まとめ
今回の記事では借金をしている状態での生活保護の受給可否や、生活保護を受給している状態であらたにお金を借りることができるのかについて解説しました。
生活保護はあなたの生活を支援してくれるシステムですが、すでにある借金については免除されませんし、新規に借金をすることによるデメリットが多数存在します。
今回の記事を参考にしていただき、適切な債務整理を実施しましょう。
もし、生活に苦心し新たな資金が必要になった場合は、今回ご紹介したような公的な貸付制度を利用し、正しく整理したライフサイクルを意識しながら「自分に合った方法」で、お金のやりくりができるようになることをおすすめします。