
個人事業主がお金を借りる方法5つとその特徴・注意点、その他の資金調達方法を解説
個人事業主がお金を借りる方法は複数あり、事業の状況や目的に合わせて選ぶことが重要です。
国が設立した政策金融機関や自治体の制度融資、銀行・信用金庫、ノンバンク、法人向けクレジットカードなどの選択肢があります。
そのため、いったいどの方法を選ぶべきか分からない方も少なくないでしょう。
そこでこの記事では、個人事業主が使える「お金を借りる方法」について、それぞれの特徴やメリット・注意点を解説します。
お金を借りる以外の資金調達方法や、銀行融資を受けるためのポイントについても触れているのでぜひご覧ください。
個人事業主がお金を借りる方法5選
個人事業主がお金を借りる方法には以下の5つの方法が考えられます。
- 日本政策金融公庫で借りる
- 自治体の制度融資で借りる
- 銀行・信用金庫で借りる
- ノンバンクで借りる
- 法人向けクレジットカードで借りる
それぞれについて詳しく解説します。
日本政策金融公庫で借りる
日本政策金融公庫は、国が設立した政策金融機関です。国が運営しているので、ほかの借入方法と比べると低い金利で融資を受けられるのが特徴です。
日本政策金融公庫による個人事業主向けの融資制度は、以下の2つがあります。
- 新規開業資金
- 普通貸付
それぞれについて解説します。
新規開業資金の概要
新規開業資金は個人事業主を含む幅広い創業者を支援する融資制度で、詳細は以下のとおりです。
- 融資限度額: 4,800万円
- 返済期間: 設備資金20年以内、運転資金7年以内
- 金利: 1.11%~2.20%(2023年4月現在)
女性、若者、シニアの方や、再チャレンジする方、会計ソフト導入者など、一定の要件を満たせば特別利率が適用されます。
利率は最大でも2.20%と比較的低く設定されており、最長20年の返済期間のため返済負担を軽減できるメリットがあります。
普通貸付の概要
普通貸付は、ほとんどの業種の個人事業主が、運転資金や設備投資資金を借入できる制度です。詳細は以下のとおりです。
- 融資限度額: 4,800万円
- 返済期間: 設備資金20年以内、運転資金7年以内
- 金利: 1.11%~2.20%(2023年4月現在)
ほとんどの業種の人が利用できますが、飲食店、喫茶店、理・美容業、クリーニング業、旅館業などを営む個人事業主の方は利用できない点はデメリットです。
これらの業種を営んでいる個人事業主の方は、生活衛生貸付を利用するようにしましょう。
自治体の制度融資で借りる
都道府県や市区町村では、地域の経済振興を目的とした個人事業主向けの制度融資を提供しています。これらの制度融資は、自治体によって内容が異なりますが、日本政策金融公庫と比べると審査基準が緩く、金利も低めに設定されている場合があります。
例えば、東京都には制度融資「東京都中小企業制度融資」という個人事業主が利用できる融資制度が存在します。この制度では、以下のような条件で融資を受けられます。
- 融資限度額: 2億8,000万円※1
- 返済期間: 7~15年以内※2
- 金利: 1.0%~2.0%程度(2023年4月現在)
※1 政策課題対応資金(HTT・女性活躍・DX・育業等)の場合
※2 借入条件により異なる
自治体の制度融資は、地域の実情に合わせて設計されています。そのため、自分の事業にマッチした制度を探すことで、より適した支援を受けられる可能性が高まるでしょう。
銀行・信用金庫で借りる
銀行や信用金庫でも、個人事業主向けの融資商品を提供しています。各金融機関が独自に商品設計をしているので、融資条件はそれぞれ異なります。
例えば、りそな銀行の「りそなビジネスローン『活動力』」は、個人事業主向けの融資商品で、以下の特徴があります。
- 融資限度額は10万円から1,000万円
- 金利は年3.0%~14.0%
このように、各金融機関が個人事業主のニーズに合わせた商品を用意しています。
ただし、銀行や信用金庫の融資は、日本政策金融公庫や制度融資と比べると金利は高めです。
一方で消費者金融などと比べれば低金利で借り入れができるため、個人事業主の資金調達の選択肢の一つとして、銀行を検討する価値はあるでしょう。
ノンバンクで借りる
ノンバンクは、銀行以外の貸金業者のことを指します。代表的なノンバンクには、信販会社や消費者金融があります。
ノンバンクは審査基準が比較的緩く、スピーディーに融資を受けられるメリットがあります。
銀行や日本政策金融公庫での借入が難しい個人事業主の方は、ノンバンクの利用を検討するのもよいでしょう。
ノンバンクの特徴は以下のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
融資限度額 | 100万円~500万円程度 |
返済期間 | 1年~5年程度 |
金利 | 10.0%~20.0%程度 |
上記を見ればわかりますが、ノンバンクは銀行などと比べて金利が高く、返済期間が短い点がデメリットです。
したがって、個人事業主が新規事業を立ち上げる際の短期資金の調達には適していますが、長期的な資金調達には向いていません。返済に時間がかかってしまうと、金利の影響で返済金額が膨らんでしまう点には注意しましょう。
法人向けクレジットカードで借りる
個人事業主でも利用できる法人向けクレジットカードがあります。カード利用枠の範囲内で必要な時に必要な分だけ借り入れができるため、柔軟な資金調達が可能です。
法人向けクレジットカードによる借入の特徴は以下のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
融資限度額 | 10万円~500万円など(審査結果により異なる) |
返済期間 | 1ヶ月~数ヶ月程度(リボ払い) |
金利 | 15.0%~18.0%程度 |
ただし、法人向けクレジットカードのキャッシングは銀行のローンなどと比較して金利が高く、借り入れ額が多くなると返済負担が大きくなる場合が多いため必要です。
特に返済に時間がかかると、負担が重くのしかかってくることでしょう。
もしも個人事業主の方が法人向けクレジットカードを利用する場合は、短期的な資金需要に対応する際の、選択肢の一つとして検討することをおすすめします。
個人事業主が銀行融資を認められるためにやるべきこと
個人事業主はサラリーマンと比較して収入が不安定なため、銀行融資の審査に通りにくいといわれる場合があります。
そのため、信用力を向上させるための対策を行い、銀行融資の審査通過率を高める必要があります。
ここでは、個人事業主が銀行融資の審査に通過するために、するべき3つの対策を紹介します。
開業届を出しておく
個人事業主が事業を始めるにあたって、開業届の提出は必須の手続きです。
金融機関は、開業届の有無を確認することで適切に手続きを行っているかを判断します。そのため、個人事業主は届け出をすることで、審査での印象が良くなるといわれているからです。
個人事業主による開業届の提出は、事業開始後1ヶ月以内に事業所の所在地を管轄する税務署に行いましょう。
確定申告をする
確定申告を適切に行うことも、金融機関からの信頼を得るために重要です。
確定申告をしていないと返済能力を一切証明できないため、審査時に無収入だと判断されてしまいます。
これでは審査に通過するのは難しいのは当然です。そのため、確定申告は必ず行うようにしましょう。
また、経費の使いすぎに注意することも大切です。経費が多すぎると所得が低くなります。その結果、審査の際に返済能力を低く見られ、審査通過しにくくなってしまうからです。
金融機関は、確定申告の内容から事業の収益性や成長性を判断します。そのため、経費の無駄遣いを避け、所得が高くなるようにしたほうがよいでしょう。
事業計画・事業目的を固めておく
銀行融資などの審査では、事業の将来性や資金の使い道が重視されます。
そのため、個人事業主の方は事業計画書を作成し、自分の事業についてわかりやすく説明する必要があります。
以下の項目を盛り込んで、しっかりと利益を出せる事業であることを示しましょう。
- 事業の理念やビジョン
- 提供する価値や独自性
- 事業の強みと弱み
- 競合や市場規模、ニーズ
- マーケティング施策と販路戦略
- リスク分析とその対策
これらを盛り込むことで、事業の強みや成長可能性を明確に示すとともに、借入金の使途や返済計画についても具体的に説明することが大切です。
事業計画書を通じて自分の事業について伝え、金融機関の理解を得るよう努めましょう。
個人事業主がお金を借りる際の4つの注意点
個人事業主がお金を借りる際には以下の4つの注意点に気を付けましょう。
- できれば開業前に融資を受ける
- 事業資金に使えないローンも存在する
- 事業資金として借りても用途が限定されることがある
- 異なる目的で使うと違反行為になる
それぞれの注意点について、詳しく見ていきましょう。
できれば開業前に融資を受ける
個人事業主の方がお金を借りる際、できれば開業前に融資を受けるのが良いでしょう。
開業時にお金が必要なのは当然であり、審査も「将来性」が重視されます。事業計画書で事業の見通しや資金の使途を金融機関にアピールできれば、審査がスムーズに進む可能性が高くなります。
一方、個人事業主の方が開業後に融資を申し込む場合、業績悪化を疑われてしまうリスクがあります。個人事業主の方が事業を開始してから融資を受ける際には、設備投資や事業拡大など明確な理由が必要になります。
特に理由がない状態で融資を申し込むと、金融機関から業績不振の理由で融資を求めていると思われる可能性が高くなってしまいます。
個人事業主の方が開業後に融資を申し込むと返済能力を疑われる可能性が高くなるため、可能であれば開業する前に資金の使い道を示したうえで、借り入れを申し込むほうが良いでしょう。
事業資金に使えないローンも存在する
個人事業主がお金を借りる際、まず注意すべきは借りるローンの種類です。
ローンには使用用途があらかじめ決まっている場合が多く、すべてのローンが事業資金として使えるわけではないからです。
住宅購入や自動車購入のために特化した住宅ローンや自動車ローンはもちろん、使途が自由なフリーローンであっても事業用には使えない場合が多いです。
個人事業主の方が事業資金を借りる場合は、事業者向け融資・ビジネスローン・創業融資・設備投資ローンなど、事業者向けのローンを選ぶ必要があります。
これらのローンは、事業資金としての使用を前提としているため、個人事業主が事業を行う上で必要な資金を借りることができます。
事業資金として借りても用途が限定されることがある
個人事業主が事業者向けのローンを利用する場合でも、借りた資金の使途が限定されることがあります。
例えば、設備投資ローンは設備投資に使用することを目的としたローンであり、それ以外の用途(運転資金など)に使用することはできません。
借入れの際にはローンの種類だけでなく、資金の使途についても確認が必要です。借りた資金を目的外に使用すると、ローン契約違反となる可能性があります。
異なる目的で使うと違反行為になる
ローンの使途が限定されている場合、借りた資金を目的外に使用すると、ローン契約違反となります。
例えば、個人事業主が設備投資ローンで借りた資金を運転資金に充てたり、事業用の資金を個人的な目的で使用したりすることは、契約違反に当たります。
契約違反が発覚した場合、ローンの即時返済を求められたり、金融機関からの信用を失ったりするなどのペナルティを受ける可能性があります。
個人事業主が借入れの際は資金の使途を確認したうえで、それ以外の用途で使わないようにすることが重要です。
お金を借りる以外で個人事業主が資金調達する方法
できれば借入をしたくない場合や、いわゆるブラックリストに掲載されておりローンを利用できない場合、以下の手段でも資金調達することが可能です。
- 自治体の補助金・助成金
- クラウドファンディング
- ファクタリング
それぞれの方法について解説します。
自治体の補助金・助成金
自治体では個人事業主を対象に、特定分野の事業支援を目的とした補助金・助成金制度を設けています。これらの制度を利用することで、個人事業主の事業に必要な資金の一部を補える場合があります。
補助金・助成金は返済の必要がないため、個人事業主の事業の負担になりません。条件を満たせば返済不要の資金を受け取れるので、利用できる場合は積極的に使いたいところです。
一例として、福岡市の「小規模事業者持続化補助金」では、条件を満たす中小企業・小規模事業者等が行う事業拡大に対して、最大で50万円の補助金が支給されます。
こういった補助金は様々な自治体で実施されているので、個人事業主の方はお住いの地域で補助金が使えないか調べてみるとよいでしょう。
ただし、申請手続きや審査に時間がかかるため、計画的に取り組むことが重要です。また、自治体によって制度内容が異なるため、個人事業主の方は自分の事業に適した制度を探す必要があります。
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネットを通じて不特定多数の人から資金を調達する方法です。個人事業主は自分の事業やプロジェクトを広くアピールし、共感してもらえれば支援者から資金が集まります。
クラウドファンディングでは、出資者に対して「商品」や「サービス」を見返りとして提供するのが一般的です。つまり、個人事業主の方は資金を受け取ってから数か月後に「商品」や「サービス」を提供すればよく、現金で返済する必要がありません。
クラウドファンディングは、自治体の補助金や融資とは異なり利用条件がそれほど厳しくないので、個人事業主の方が補助金や融資を利用できないときに資金調達できるメリットがあります。
ただし、個人事業主の方がキャンペーンの運営やリターン商品の準備を行うには時間と労力がかかります。また、実施しても確実に資金が集まるとは限らないため、こういった点を理解してから検討することが大切です。
ファクタリング
ファクタリングは、売掛金を担保にファクタリング会社から資金を調達する方法です。
一般的に個人事業では、売り上げが発生してから実際に手元に振り込まれるまでにはタイムラグがある場合が多いです。そこで、請求書(売掛金)をファクタリング会社に売却することで、すぐに現金が手に入り資金繰りを改善できます。
ファクタリングを利用する際には、ファクタリング会社に手数料を支払う必要があるため、受け取れる金額は本来の売り上げよりも少なくなります。
また、ファクタリング利用時には審査があるため、売掛先企業の規模や入金期日などの条件によっては、ファクタリングを利用できない場合があります。
記事まとめ
個人事業主が利用できる融資には様々な種類があり、それぞれにメリットと注意点があります。
自分の事業に適した方法を選ぶことが大切ですが、融資以外にも自治体の補助金・助成金、クラウドファンディング、ファクタリングなどの資金調達方法の利用も検討できます。
銀行融資を利用する場合、個人事業主は審査通過しにくい可能性があるため、対策が必要になります。
開業届の提出、確定申告の実施、事業計画書の作成などを通して、金融機関から信頼されるよう努めましょう。
この記事が個人事業主の方が適切な方法で資金を調達するための、お役に立てれば幸いです。