会社からお金を借りることができる「従業員貸付制度」について解説
急に入院することになったり、転職したばかりで生活が苦しい時など「会社から給料を前借りしたい」と思った経験がある方は少なくないでしょう。
実は前借りとは別で、緊急にお金が必要になった時に会社からお金が借りられる「従業員貸付制度」というものがあるのをご存じでしょうか。
今回はこの従業員貸付制度について、給料の前借りとの違いや制度を利用する際の条件なども含めてくわしく解説します。
会社からお金を借りる「従業員貸付制度」とは
従業員貸付制度とは、社員が自分の会社からお金を借りられる制度のことです。
前借りと混同しがちですが、実は全く違うもので、「社内貸付制度」とか「社内融資」とも呼ばれることもあります。
では従業員貸付制度とはどういうものなのか、前借りとはどう違うのか、くわしく見ていきましょう。
福利厚生の一環である
従業員貸付制度は、社員が会社から低利でお金を借りられる制度のことです。
法令で義務付けられた制度ではないためすべての企業で使える制度ではありませんが、福利厚生の一環としてこの制度を導入する企業も増えています。
急にお金が入用になった時に会社からお金を借りることができれば本当に助かりますし、消費金融などでお金を借りるより安心な気がしますよね。
社員にとってはありがたいこの制度ですが、実は企業にとっても従業員貸付制度の導入に次のようなメリットがあります。
従業員貸付制度の導入による企業側のメリット
企業が従業員貸付制度を導入するメリットには次のようなことがあります。
- 会社に対する満足度の向上が期待できる
- 企業の魅力としてアピールできる
- 会社内での金銭トラブルを予防できる
メリットのひとつは、従業員貸付制度を導入することにより、社員の会社に対する満足度を向上させることが期待できる点です。
また従業員採用にあたって企業の魅力のひとつとしてアピールすることもできます。(実際にこの制度は大企業を中心に導入されています。)
その他、社員の金銭トラブルを防げる点も大きなメリットです。
例えば社員間でのお金の貸し借りによるトラブルや、多重債務によるトラブルが起これば業務に支障をきたす恐れがあります。
従業員貸付制度を導入することでそのような事態を避けることができます。
給料の前借りとの違い
従業員貸付制度と給料の前借りでは資金の出どころが違います。
給料の前借りは、給料日に渡す予定のお金を前渡しにすることです。この場合給料日には前渡し分が差し引かれることになります。
給料の前借りをし過ぎると生活費が足りなくなってしまい、前借りし続けることになる恐れがありますから注意が必要です。
一方、従業員貸付制度の資金源は会社の利益であるため、給料が差し引かれることはありません。
では誰でもすぐに従業員貸付制度を利用できるのでしょうか。
従業員貸付制度でお金を借りる条件
従業員貸付制度を利用する場合には、次のような借り入れ条件があります。
- (基本的に)正社員であること
- 借入金を生活費やギャンブルに使わないこと
- 社内審査で認められること
- 連帯保証人が必要
ではひとつずつ内容を確認していきましょう。
①(基本的に)正社員であること
従業員貸付制度は法令で義務づけられた制度ではないので規定や内容は企業により異なりますが、従業員貸付制度を利用して会社からお金を借りることができるのは基本的に正社員のみです。
また正社員であっても勤続年数や役職などにより利用に制限があるケースも少なくありません。
ご自分の会社で従業員貸付制度が導入されている場合は、総務担当者に内容を確認してみましょう。
②借入金を生活費やギャンブルに使わないこと
従業員貸付制度で借りたお金は何に使っても良いというわけではありません。
これは従業員貸付制度が「家族が入院することになった」とか「天災による家屋の修繕費」などの理由で困っている社員を支援するための制度だからです。
その他、次のような場合にも従業員貸付制度を利用できます。
- 出産費用
- 地震や洪水などの災害に対応する費用
- 冠婚葬祭のための費用
- 引越し費用
- 子供の入学費用など
- 生活費
従業員貸付制度でお金を借りる目的は基本的に病気や災害、教育資金といわれていますが、仕事に必要なスキルを身につけるための講座受講費用やパソコン購入費用などの目的も認められる可能性が高いです。
なお会社によっては従業員貸付制度で借りるお金を住宅ローンの支払いや自動車の購入費用にあてられるところもあるようなので、会社の総務や経理に確認してみるのもひとつの方法です。
※お勤めの会社が自動車会社であれば車両購入資金貸付制度が設けられている場合もあります。
③社内審査で認められなければならない
従業員貸付制度を利用する際には社内審査で認められる必要があります。
社内審査では勤続年数や勤務状況、日頃の勤務態度などが審査されますが、金融機関の審査と違って信用情報などを調べられることはないため、信用情報に傷がついた状況であっても影響はないと考えて良いでしょう。
審査は経理や総務が担当し、最終的な判断は社長が行う流れです。
ただ従業員貸付制度ではお金を借りる目的が限定されていますので、見積書や領収証の提出を求められる可能性があります。
④連帯保証人が必要
従業員貸付制度でお金を借りる場合、連帯保証人が必要です。
家族や友人、同僚などに依頼して連帯保証人になってもらいましょう。
ただその場合、家族や友人などに従業員貸付制度でお金を借りることが知られてしまうことは避けられません。
どうしても連帯保証人を用意できない場合は従業員貸付制度でお金を借りることは難しいと思った方が良いでしょう。
⑤金銭貸借契約書か借用書を取り交わす
審査の結果従業員貸付制度でお金を借りることになれば、金銭貸借契約書か借用書を取り交わすことになります。
金銭貸借契約書や借用書には貸付の日時や返済方法、返済期日などが記載されています。
会社からいくらまで借りられるのか?利用限度額が決まる条件とは
従業員貸付制度でお金を借りる場合、いくらまで借りられるのか気になるという方も多いでしょう。
調べてみると従業員貸付制度で借りられるお金は、勤続年数や年収によって決まることが分かりました。
参考までにある銀行での借り入れ限度額の事例を目安として紹介します。
この事例では、勤続年数が1年以下の場合で10万円、5年未満で30万円以下、10年以下で50万円となっていました。
借り入れ限度額は会社の規定によって異なり、最大で100万円会社に借りたケースもありますので、一度総務担当者に確認してみると良いかも知れません。
金利はカードローンより安い?
従業員貸付制度でお金を借りる場合の金利は2.0~4.0%です。
一般的な銀行のカードローンの金利は12~14%ですから、かなり低い金利でお金を借りられることが分かります。
これは従業員貸付制度が利息目的ではなく、社員の救済が目的だからです。
ではどうして金利を0にしないのか、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
従業員貸付制度でお金の貸付金利を0にしてしまうと贈与税の対象になる可能性があるからです。
贈与税の対象になっては会社の支出が大きくなってしまいますから、そうならないようギリギリの金利を設定しているというわけです。
車や住宅のローンがあると不利?
従業員貸付制度でお金を借りる場合、車や住宅のローンがあると不利になるのではと心配される方もいらっしゃるでしょう。
でも心配は要りません。従業員貸付制度でお金を借りる場合、審査があるのは前述のとおりですが一般的なカードローン審査のように信用情報を調べることはないため、現在支払い中のローンなどの情報が会社に知られることはないからです。
人事評価に影響はある?
従業員貸付制度で会社からお金を借りても人事評価に影響はありません。
会社からお金を借りると人事評価に響くのではないかと心配で従業員貸付制度の利用をためらっている人も多いでしょう。
でも従業員貸付制度は社員の支援を目的とする制度ですから人事評価への影響はありません。
従業員貸付制度を利用する流れ
従業員貸付制度を利用する流れは以下のとおりです。
- 直属の上司に従業員貸付制度を利用したい旨相談する
- 経理か総務の担当者に従業員貸付制度の申込書をもらう
- 申込書に記入をし、提出する
- 審査が行われ、審査が通れば役員貸付として融資を受けられます
従業員貸付制度で会社からお金を借りる前に知っておくべきデメリットと注意点
従業員貸付制度で会社からお金を借りる場合、事前に知っておくべきデメリットと注意点をくわしく解説します。
従業員貸付制度のご利用をお考えの方は、デメリットを把握した上で申し込みを行いましょう。
どの企業でも導入しているわけではない
従業員貸付制度は企業の利益から貸し付けを行うため、どの企業でも導入しているわけではありません。
自分が勤めている会社が従業員貸付制度に対応しているならぜひ利用したいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。
自分の会社が従業員貸付制度を導入しているかどうかは会社の約款や就業規則に掲載されているはずですから確認してみてはどうでしょうか。
あるいは上司や総務担当者に確認してみるのもひとつの方法です。
融資までに数週間かかるので至急お金が必要な人には向かない
従業員貸付制度は安い金利でお金が借りられる大変便利な制度ですが、実際に融資されるまでには数週間かかるため、至急お金が必要な方にとっては向きません。
至急お金が必要な場合には銀行や消費者金融のカードローンの借り入れを検討することをおすすめします。
従業員貸付制度で借りたお金を返済する方法
従業員貸付制度で借りたお金の返済方法について確認しておきましょう。
従業員貸付制度でお金を借りた場合、給与天引きか指定口座への振り込みのいずれかの方法で返済することになります。
給与天引きで多額の返済金が引き落とされると生活が苦しくなる恐れがありますが、実際には生活に支障が出ないよう、返済金は給与の1/4を超えない額に調整されます。
返済に期限はある?延滞するとどうなる?
従業員貸付制度でお金を借りた場合、多くのケースで返済期限は5年となっています。
ただ返済期限については会社と申込者による話し合いで決定するため、必ず5年が返済期限と決められているわけではありません。
また返済を延滞すると会社での人事評価に影響し、信頼を失うことになりかねませんから返済が滞らないよう注意しましょう。
なお、申込人が返済不可能と会社が判断した場合には連帯保証人が返済の義務を負うことになります。
その場合には保証人になってくれた人からの信頼も失うことになりますから、返済は計画的に行いましょう。
退職する場合は一括返済が必要
従業員貸付制度でお金を借り、全額を返済しないうちに会社を退職することになった場合は従業員貸付制度で借りたお金を一括返済する必要があります。
従業員貸付制度でお金を借りる際に退職の予定がある場合は、一括返済が可能な額を借りるようにしましょう。
従業員貸付制度でお金を借りるのが無理な場合
従業員貸付制度でお金を借りるのが無理な場合、会社に給料の前借りを依頼する方法もあります。
ただし勤務実績がない日の給料をもらってしまうと先払いした給料分を強制労働させることになってしまうため、働いた分の給料しか前借りはできません。
給料の前借りはパートやアルバイトなどの雇用形態に関わらず利用できます。もちろん、すべての場合で前借りできるのはすでに働いた分の給料のみです。
なお給料の前借りは緊急にお金が必要な場合に可能ですが、遊びに行くお金が足りないなどの理由では前借りできませんから注意しましょう。
記事まとめ
従業員貸付制度は安い金利で会社からお金を借りられるので、急にまとまったお金が必要になった時などに大変ありがたく便利な制度です。
従業員貸付制度では借り入れを受けるための審査が社内完結の比較的緩いものなだけに、住宅ローンや自動車ローンを利用していたり、信用情報に傷がある可能性がある場合でも利用できるのがうれしいですね。
ただ連帯保証人を見つけられない場合に会社からお金を借りることはできませんし、お金を全額返済する前に会社を退職するなら一括返済が必要な点を考えると申し込みに躊躇する方もいらっしゃると思います。
現在従業員貸付制度での借り入れをお考えの方は、ここで紹介したメリットとデメリットを十分考慮した上で利用しましょう。