投資信託を購入する時に知っておきたい判断基準とは
2022年、岸田政権により「資産所得倍増プラン」が発表され、国民の資産形成を後押しする政策が相次いで打ち出されました。
税制優遇制度であるNISAも非課税保有期間の無期限化や年間投資枠が拡大されたことも聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
また、資産運用が投資家の方だけでなく一般人にも身近になった現代は、資産運用商品も多く普及し、選び方にも多様性が生まれてきています。
中でも少額から始められ、投資のプロに運用をお任せすることができる投資信託は、手軽な資産運用方法として多くの注目を集めています。
本記事では、投資信託商品を購入する前に知っておきたい銘柄の選び方や、投資信託で注意すべきことを解説します。
投資信託の銘柄選びで見るべきところ
投資信託に限らず言えることですが、投資を始める上で大切なことは事前の情報収集です。
情報収集をしやすくするためのポイントを以下にまとめました。
ファンドの種類
投資信託というと株式投資を想像する方が多いかもしれませんが、実は多くの投資対象が存在します。
ファンドの種類 | 投資対象先 | 特徴 |
---|---|---|
株式ファンド | 株式市場 | 株式型投資信託は、国内・海外株式や特定の地域・セクターに特化した株式など様々な株式に投資するファンド |
債券ファンド | 債券市場 | 国債、企業債、地方債、高利回り債など様々な種類の債券に投資するファンド |
バランスファンド | 株式・債券市場など | 株式と債券など異なる投資対象先に分散投資をすることで、リスクの分散やポートフォリオの安定化を目指すファンド |
インデックスファンド | 株式・債券市場など | 株式と債券など異なる投資対象先に分散投資を行い、主要な株価指数や債券指数など特定の指数に連動することを目指すファンド |
REITs(リート) | 不動産市場 | 商業施設、住宅、駐車場など不動産に対して投資するファンド |
コモディティファンド | 商品市場 | 金、原油、穀物などの商品市場に投資を行い、商品の価格変動に応じて収益を目指すファンド |
上記のファンド以外にも様々な種類や特徴を持った銘柄が存在します。
また、ファンドの種類を見る上で「投資対象先」以外に「投資対象地域」を見ることも大切です。
投資対象地域は以下の3パターンに分かれます。
投資対象地域 | メリット | デメリット |
---|---|---|
国内 | ・為替変動リスクが無い ・馴染みのある企業や業界の成長を予測しやすい |
・地震等の災害発生時に株価下落の可能性がある ・大きなリターンは見込めない |
海外(先進国) | ・カントリーリスクが低いため値動きが安定している | ・為替変動リスクがある 大きなリターンは見込めない |
海外(新興国) | ・利回りの高いファンドが多い ・経済成長率が高くファンドの値上がりに期待できる |
・為替変動リスクがある カントリーリスクが高い 情報収集が難しい |
国内や海外の先進国のファンドを投資対象としている場合は、大きく乱高下する可能性は低いため、安定した投資信託の運用を行うことが可能です。
新興国のファンドを投資対象とする最大のメリットは、高いリターンを期待できる点にあります。
一方で政治や経済の影響を大きく受けやすいため、投資信託を始めるタイミングや購入する銘柄によっては大きな損失を被ってしまうリスクが高いと言えるでしょう。
手数料
投資信託では銘柄によって様々な手数料がかかるものがあります。
銘柄の選び方を考える上で手数料などの費用を考慮することは重要です。
手数料には主に以下のようなものが発生します。
1.販売手数料
販売手数料とは投資信託商品を購入する時に発生し、販売会社に対して支払います。
この手数料は販売会社が銘柄ごとに自由に設定できますが、一般的には購入価格に対して2〜3%の費用がかかります。
投資信託商品はネット証券会社や対面式の証券会社、銀行など色々な金融機関で取り扱っています。
この金融機関によって銘柄の特徴(購入可能な銘柄の数や手数料)が異なりますので留意する必要があります。
金融機関それぞれにメリット・デメリットがありますが、販売手数料を考慮する場合ではネット証券で販売されている銘柄を購入することがおすすめです。
理由としてネット証券会社は、対面式の証券会社や銀行などの金融機関と違って店舗を持たず、手数料が低く設定されていることが多いためです。
また、ネット証券会社は購入できる銘柄数も多い傾向にあり、最大手のSBI証券では実に2579本もの銘柄から購入することができます(2024年4月時点)。
上述した投資対象先や地域ごとに運用がされている商品も多く、豊富な商品群から自分の目的に沿った銘柄を購入することが容易です。
ノーロードファンドといった販売手数料の費用が発生しない商品もありますので、コストを抑えたい方はノーロードファンドを選ぶのも良いでしょう。
2.信託報酬
信託報酬とは運用管理費用とも呼ばれ、投資信託商品を保有している時に発生し、運用会社に対して支払います。
この手数料も運用会社が銘柄ごとに自由に設定をしますが、一般的に年率0.06%〜3%もの運用管理費用が発生します。
信託報酬の手数料は、目論見書にも記載されていますのでしっかり目を通しておきましょう。
※目論見書とは該当する銘柄の商品内容や運用方針、リスク関連などを投資家に提供するための文書のことを指します。
3.信託財産留保額
信託財産留保額とは投資信託商品を解約する際に発生し、そのファンドに対して支払います。
信託財産留保額は投資信託商品によっては手数料がかからないものもありますが、一般的な手数料は0.3%前後となっていることが多いようです。
過去の運用実績
投資信託商品の選び方を考える上で、パフォーマンスが高い銘柄を購入するに越したことはありません。
よって過去の運用実績を把握することは非常に重要です。
投資信託において参考にすべき具体的な指標には下記のようなものがあります。
- 利回り
- 騰落率
- シャープレシオ
- ベンチマーク
- レーティング
1.利回り
投資信託商品を評価する上で最も大切な指標と言っても良いのがこの利回りです。
利回りとは投資信託商品を購入した元本に対して得られた収益の割合を指します。
利回りが高い投資信託商品には高い利益を見込むことができますが、投資対象先が新興国であるなど値下がりのリスクを持つ銘柄が含まれている可能性が高いです。
利回りが高いからと言って飛びつくことはせず、その他の指標も参考にながら投資信託の銘柄を選びましょう。
2.騰落率
騰落率とは特定の期間内に株価や市場指数などがどれだけ上昇または下落したかを示す割合のことです。
該当する投資信託の銘柄にどれくらいの値動きがあったかを把握できるため、騰落率を見ることは重要であると言えます。
計算方法は、騰落率=配当金+(終値−始値)/始値×100で表します。
以下のケースについて具体的な計算方法を考えましょう。
- 100万円で投資信託商品を購入、1年後の評価額は120万円
- 1年間の分配金額は5万円
この場合だと、
よって騰落率は25%となります。
騰落率も投資信託の銘柄を選ぶ上で重要な指標ですが、これは将来的な運用結果を保証するものではありませんので複合的な判断が必要となります。
3.シャープレシオ
投資信託におけるシャープレシオとは、投資リターンとそのリターンを得るために負担されるリスクの関係を示す指標の一つです。
シャープレシオを用いることで、その投資信託商品の銘柄が効率よく運用されているかどうかを判断することが可能です。
計算方法は、シャープレシオ=(投資信託商品の収益率-安全資産利子率)÷標準偏差で表されます。
この計算から該当銘柄の利益(収益率)から投資に伴うリスク(安全資産利子率)を引いて、その差をリスクの大きさ(標準偏差)で割った数字が算出されます。
この数字が大きいほど、その銘柄はリスクに対して効率的な運用がなされていることを意味します。
4.ベンチマーク
投資信託におけるベンチマークとは、その銘柄を運用する上で目指す目標や基準のようなものです。
投資信託を運用する目的はお金を増やすことです。
該当する投資信託商品が市場の動きや他の銘柄と比較した時に、どれだけ優れているかを把握するために、このベンチマークが使われます。
株式ファンドの場合は日経平均株価やS&P500など、債券ファンドの場合はNOMURA-BPI総合など、バランスファンドの場合はMSCI World Indexなどの指数がベンチマークとして設定されることが多いです。
ベンチマークと比較をすることで、その投資信託商品設定している運用目標や方針に沿った運用を行っているかどうかを把握できるため重要な判断基準だと言えます。
5.レーティング
投資信託におけるレーティングとは、その銘柄の運用効率や信用力、リスクなどを評価するための評価や格付けのことを指します。
レーティングの結果は一般的に☆1つから☆5つまでの5段階で表示されることが多いです。
また、評価基準は調査をする会社によって異なりますが、その銘柄の利回りや騰落率、シャープレシオなど過去の運用実績から評価される場合が多いです。
これに加え手数料等のコスト、運用会社やファンドマネージャーの信用力も評価基準となることが多いので総合的な観点でレーティングがなされます。
このレーティングは通常、独立した評価機関や金融機関などの第三者によって評価がされるため、投資信託の銘柄を選ぶ際に有効な判断材料であると言えます。
純資産総額
投資信託の純資産総額とはその銘柄を購入した人々が出資したお金や、その資金を元手に購入された株式や債券などの合計金額のことです。
純資産総額を見ることでその銘柄の規模を理解することができます。
純資産総額が高ければ多くの投資家が資金を預けている可能性が高く、大規模なファンドであると言えるでしょう。
参考として三菱UFJアセットマネジメント株式会社が運用している「eMAXISSLim 米国株S&P500」という銘柄では4兆1,579 億円もの純資産総額があります(2024年4月時点)。
しかしながら、純資産総額が高くても運用成績が芳しくない銘柄もありますし、低い純資産総額で効率的な運用を行なっている銘柄も存在します。
ただ、投資信託において一定額以上の純資産総額がなければ不安定な運用となってしまう可能性が高いため、その他の指標も参考にしつつ総合的に判断しましょう。
投資信託の選び方を知る上で抑えておきたいポイント
ここまで投資信託の銘柄を選ぶ上で見るべき具体的な数値や指標について説明しました。
しかしながら、資産運用を始めるにあたって最も大事なことは知識ではありません。
本章では投資信託の銘柄を購入する前に知っておきたい心構えについて解説します。
初心者こそ投資目的を明確に
「新NISA(ニーサ)制度のスタート」や「周りが投信を始めたから」など、漠然とした理由のまま投資信託を始めようと思っている方も多いのではないでしょうか。
そんな方はまず投資信託を始める目的を設定することから始めましょう。
冒頭でも説明しましたが、投資信託商品には長期的な資産形成を目的にローリスクローリターンで運用する銘柄もあれば、リスクを承知で高いリターンを目指して運用する銘柄もあり投資信託商品によってテーマが変わります。
ご自身が何のために資産運用をするのか、ぜひ一度考えてみてください。
「いつまで」と「いくら」を決める
続いて投資期間と目標金額を考えてみましょう。
今回は以下のケースについて考えていきます。
- 投資信託を始める目的は「老後資産の形成」
- 現在35歳で妻と二人暮らし。
- 65歳で定年退職の予定
- 月々の生活費は二人で25万円(年間300万円)
上記のケースだと35歳から65歳まで投資をするため投資期間は30年となります。
さらに85歳まで生きると仮定すると目標金額は300万円×20年=6,000万円です。
30年の投資期間で6,000万円の資産を形成するときに月々いくら投資を運用すべきでしょうか。
年利が5%の複利で運用される投資信託の銘柄を購入した場合、単純計算で月に約7万3千円の積立を行うと良いことになります。
この通り期間と目標金額から逆算することで目的に合わせた投資信託の銘柄を選ぶことができます。
投資信託商品を購入する際は「投資目的」×「期間」×「目標金額」の式を参考にしてみてください。
リスクがあることを理解しておく
投資信託に限らず、資産運用に一定のリスクはついて回ります。
これまでも説明しましたが、銘柄によっては高いリスクを伴う商品もあるので目的に応じた銘柄選びが重要です。
投資においては「Don’t put all eggs in one basket」という格言があります。
日本語訳では「卵を一つのカゴに盛るな」という意味で、リスクを分散することの重要性を示しています。
投資をする際に全ての資金を1つの投資先に集中させてしまうとその銘柄にトラブルが発生した時に大きな損失を被りかねません。
したがって異なる投資先に資金を分散させることでリスクを軽減し、資金全体の安定性を高めることが重要となります。
【年代別】銘柄の選び方
先ほどの章では投資信託を始める上で大切な考え方について説明しました。
目的を明確に設定すれば自ずとどんな特徴を持った銘柄を選ぶべきかなんとなく予想がつくようになるかと思います。
また、資産運用は投資家ごとにライフプランも変わってくるため銘柄の選び方についても千差万別であると言えるでしょう。
ここでは投資信託の銘柄選びが簡単になる考え方を年代別に紹介いたします。
20代におすすめな銘柄の選び方「成長性の高い銘柄選びも◎」
20代はリタイアまでまだまだであり、資産形成をするのに大きな時間が残されています。そのため、長期的な視野で投資信託を選ぶことが重要です。
20代から投資信託を行うメリットは複利効果と長期的な運用によるリスク軽減の2点があります。
分散投資でリスクヘッジすることも念頭に置きながら、大きなリターンが見込める成長性の銘柄に積極的に投資しても良いでしょう。
また、20代は中堅層に比べると投資に回せる資金も少なくなる傾向にあります。
より効率の高い資産運用を行うためにNISAを活用するのも一つの手です。
NISAでは投資信託の運用で得られた配当や売却益に対して税金がかからないため、利益を最大化することが可能です。
30〜40代におすすめな銘柄の選び方「リターンを狙いつつリスク管理にも目配りを」
30〜40代となると、リタイアまではまだ時間があり投資期間も猶予が残されているものの、20代の頃と比べて家庭を持たれる方も増えてきます。
老後の資産形成だけでなく子供の教育資金に投資信託を考えている方も多いのではないでしょうか。
そのため、成長性と安定性のバランスを意識した銘柄選びをおすすめします。
例えば、購入する投資信託の銘柄は安定性の高いバランスファンドの割合を多めに、成長性の高いREITsや株式ファンドのものを選んでも良いかと思います。
50代以降におすすめな銘柄の選び方「できるだけリスクを抑えた銘柄選びが吉」
50代以降は退職金や貯金を元手に、リタイア後の収入源を得ることを目的として投資信託を始める方も多いかと思います。
医療の進歩により平均寿命も伸びている現代、老後の生活資金がいくらかかるのか正確に把握することは難しいでしょう。
そのため大切な資金を無駄にしないためにも投資リスクや運用コストに重点を置いた銘柄選びをおすすめします。
例えば、手数料などの運用費用が低い債権ファンドやインデックスファンドを中心に、先進国の株式ファンドを加えた分散投資で安定した資産運用を行いましょう。
記事のまとめ
本記事では投資信託の銘柄の選び方について解説をしてきました。
投資信託を始める上で大切な考え方は投資目的を明確にすることです。
投資信託の銘柄を検討する上で大切なことは事前の情報収集を行い、運用上の数値やレーティングなどの客観的評価から総合的に判断することです。
投資信託の銘柄選びにお悩みならお金のプロにご相談ください
また、投資信託の銘柄の選び方に自信が持てない方やどうしても判断がつかない方は「お金のプロ」であるファイナンシャルプランナーに相談することもおすすめです。
ファイナンシャルプランナーとは、相談者の将来のライフプランニングに寄り添った資金計画やアドバイスを行う専門家のことです。
投資信託に関するアドバイスはもちろんのこと、それに付随する確定申告についてやNISA、iDeCoなどその他の金融資産についてもアドバイスをもらえます。
無料で相談できるファイナンシャルプランナーもいますので、困ったらお金のプロに頼ってみるのも良いかもしれませんね。
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